初めての歌舞伎、渋谷・シアターコクーンでの『切られの与三』はクセになる面白さ

歌舞伎といえば、古典的な言葉遣いや“見得”を思い浮かべる人は多いでしょう。私もそうでした。

でも、渋谷・コクーン歌舞伎『切られの与三』は一味違うんです。何てったって、ピアノを使いますから!

ピアノですよ?

そもそも、私にとってこれが初めての歌舞伎。いくらコクーン歌舞伎が古典と現代的要素の融合と言っても、話自体はちょっと難しいかもと考えていました。

その心配は杞憂で終わるんですが、まずは基本情報からおさらいです。

公演情報

コクーン歌舞伎 第十六弾『切られの与三』
上演期間:2018年5月9日〜5月31日
上演場所:渋谷・Bunkamura シアターコクーン
上演時間:約3時間5分
・序幕→幕間10分→第二幕→幕間15分→大詰
(参考までに、私が見たときは13:30開演で終わって外に出たのは16:40でした)

演出・美術:串田和美
補綴:木ノ下裕一

登場人物:
与三郎…中村七之助
お富…中村梅枝
伊豆屋与五郎…中村萬太郎
小笹…中村歌女之丞
おつる…中村鶴松
赤間源左衛門…真那胡敬二
下男忠助/蝙蝠の安五郎…笹野高史
海松杭の松五郎/藤八…片岡亀蔵
和泉屋多左衛門/観音久次…中村扇雀

ざっくり内容

瀬川如皐『与話情浮名横櫛(よわなさけうきなのよこぐし)』を原作にした歌舞伎の人気演目の1つで『切られ与三』や『お富与三郎』とも呼ばれます。

原作は九幕の長編でありながら、歌舞伎ではそのうちの“見初め”と“源氏店”がよく上演されているそうです。

今回の『切られの与三』は原作の全幕を洗い出し、現代的な要素もからめつつ出来上がった全く新しい作品なんです。

ストーリー

江戸の伊豆屋の若旦那・与三郎(演:中村七之助)は親から勘当され木更津で暮らしていた。

ある日、与三郎は浜辺で元芸者で美しいお富(演:中村梅枝)と出会い、互いに一目惚れ。それ以降、2人は文を交わして距離を縮めていく。

しかし、お富は木更津の親分に囲われた身。ついに逢瀬が見つかってしまう。

海へ身投げし逃げ出すお富。一方、与三郎は捕らえられ、罰として顔や体を刀で傷だらけにされてしまう。傷の数は、なんと34箇所にものぼっていた。

それから3年。与三郎は身体中に残る刀傷から“切られの与三”と呼ばれる小悪党に落ちぶれており、傷を活かした強請りで稼ぐという生活を送っていた。

ある時、与三郎はごろつき仲間と一緒に向かった家で、亡くなったとばかり思っていたお富と再会する。お富は海で溺れていたところを助けてくれた男に囲われていたのだ。

再び出会った2人はやがて一緒になるものの、生活は苦しいまま。与三郎とお富は生きていくために苦渋の選択をするのだった…。

舞台装置が“しょぼい”と思ってごめんなさい

初の歌舞伎、ものすごく期待していました。幕が開ける際のピアノで驚きつつ、会場が軽妙な音楽で盛り上がるにつれ、私の気分も盛り上がり。

それが、舞台装置を見た途端…んぐぐっと飲み込むものがありました。

歌舞伎ってこうなのか?

歌舞伎素人なのでよく分かってないながらも、もっと派手な印象を持っていたんです。でも、派手からは程遠く、むしろ、何というか、学芸会みたいでしょぼくないか、と。

橋はデデンとあるけど、あとは骨組みだけ。スクリーンは見えるけどメインは骨組み…。

そりゃもう、町人たちの、なかなか厳しそうな格好で止まってるところとか、講釈師が次々と出てきたところとか、見どころそっちのけでこれで大丈夫なのかと勝手ながら舞台装置を心配してましたよ。

でも、声を大にして言わなきゃいけないことが。

舞台装置がしょぼいと思ってごめんなさい!

これがまあ、イマジネーションを掻き立てるんですよ。

骨組みが可動式のパーテーションとでも言えばいいんでしょうか。とにかく色々な枠違いの四角い可動式のものになっていて、そのパーテーションの組み合わせによって街、家、部屋とさまざまな場所に景色が変わるんです。

奥行きが感じられて、路地を通ったりとか、部屋を出たり入ったりとか、街中を逃げたけど行き止まりに追い詰められたりとか。

小さい時に、何ともない空間を使って、「ここに扉があって、ここは部屋で…」と、ままごとと言うか、成り切りごっこしたときを思い出しました。

もちろん、自分の小さな世界とは比べものにならないすごさなんですけど、楽しかったよなと物思いに耽けながら見ていると、舞台上の役者さんたちのコンビネーションが実に見事で、パーテーションの組み合わせで「次はそう来たか」「私には空間が見えるぞ!」とちょっと得意げになりつつも見入ってしまいました。

お富は傾国の美女!

もうね、嫌いです!いい意味ですよ。笑。

お富は男性から好かれ、女性から嫌われる典型的な人かもしれません。

1人だと何もできないんですよ。でも生きていかなきゃならないから、お金持ちの男性に囲われて生活してるんです。

そんなお富は与三郎とすれ違いの恋をするんですが、与三郎と出会うたびに違う男性に囲われてるんですよ。

与三郎、目を覚ませ!

元芸者でそれはそれは美しいと謳われているんですが、お富はやっかいですね。人の人生狂わせます。

最もやっかいなのが、自分は手を汚さないくせに、人に犯罪教唆するんですよ。ふらっと現れては甘く囁いて。どこの悪女かって話なんですが…。

ただ、最後のほうで夫婦になる久次と一緒にいる姿は、ようやく落ち着いたというような、これまでの「本当は人に興味ないのかな」「誰でもいいのかな」と思わせるような印象とは全く異なる、久次のことが好きないい女房の姿に思えました。

ようやく宿り木が見つかったというか、久次と2人でいるときの雰囲気が穏やかで、そこにまたしても現れる与三郎のほうが完全に邪魔者に思えたほどです。

それにしても、今回お富を演じてらした中村梅枝さん。

立役のそばにいくと、その男性を立てるように膝を深く曲げて自然と上目遣いなのがまた良い!

日本舞踊を嗜んでいるうちの母が、女方のときは膝を深く曲げると言っていたのを思い出しました。

梅枝さんは背がお高いんでしょうか。お富を囲う方々とか、お富より遠目では背が低そうに見えた方々の近くにいったらどうなるのかなと思っていたら、膝を折って座ってしまう、と。なるほど、そうなんですね。

そして、与三郎と別れた後、舞台のセンター後方で後ろ姿を“魅せて”らしたんですが、もうお美しい!話さずとも美しいなんて反則です。

与三郎は、なよなよ男子!?

お金持ちのボンボンはこうもサバイバル能力がないのかと。笑。

いや、サバイバル能力はありました。島抜けも果たしましたし。殺されそうになっても生き残ってましたし。

なんと言えばいいんでしょう。お富とはまた違った、1人では何もできない人というか。

お坊ちゃまで、木更津に行ったあとも江戸を恋しがって嘆き続けたり、いじけたり。お富に一目惚れして浮かれて周りが見えなくなったり、親切そうに見える人にほいほい付いていっていつのまにか小悪党になったり。

お富と一緒になれたはいいけど、稼ぎがないのに生活レベルを落とせなくて貧困生活を送ったり。その時にまたそそのかされて、犯罪に手を染めたり。

人に流されすぎでしょう。

こうなってくると最後の最後だけが、自分の本当の意思で決断したことなんじゃないかなと思いました。

そんな与三郎ですが、名ゼリフ「しがねえ恋の情けが仇」を忘れてはなりません。

初めに与三郎がそう言ったときは、お富の思いがけない姿に恨み言として口にしたけど、未練もにじみ出ている感じがしました。精一杯強がっているような印象でしたね。

木更津の逢瀬のせいで自分はこんな姿になったのに、あなたはいいですね、しっかりとした生活ができて楽しそうでというような思いと同時に、亡くなったと思っていたお富が生きていたということに喜びと再会できた嬉しさもあったんじゃないでしょうか。

でも、次に同じことをぼそっと吐いたときには、自分の人生を振り返っていて、間違えではないんだけど、もうどうしようもないということにようやく気付いたのかと、なんとも悲しくやるせない気持ちにさせられました。

最後に。女方としてトップを走る1人である七之助さんが、公開稽古か何かで、「いつもは女方で足を見せるのも抵抗があるのに、今回はお尻まで白塗りすることになるとは…」とおっしゃっていました。

ええ。しっかり確認しましたとも 笑。そして、周りのお姉様方も同様に確認されていたことを合わせてご報告申し上げます。

走れ、与三郎

ジャズ・セッションがあったことや、次々とバトンタッチされる講釈師のとこや、時が止まって2人だけの世界に入る与三郎とお富や、忠助から蝙蝠安への早着替えという名の生着替え 笑。

手品みたいにまさかの場所から出てくる場面や、名ゼリフや、決めポーズや見得や…って色んな見せ場と色んなお楽しみポイントがありました。

その中でも特に好きだったのは、与三郎が逃げまくるシーン。

シアターコクーンにはいわゆる花道がなく、劇場には客席通路がふつうにあります。その通路には階段もあるんですが、階段もなんのその。ものすごいスピードで与三郎が客席通路を駆け回るんです。

下向きたくなるじゃないですか、階段ですし、着物ですし。でも気にするそぶりは見せず、スピードは落とさずガンガン走るんです。

歌舞伎の花道はテレビでしか見たことないんですが、それを見る限り花道のそばからだと観客は役者さんを見上げる形になってますよね。

コクーンにあるのは通路ですから、役者を見ようとしても少し目線をあげる程度。そのため、役者さんがめちゃくちゃ近くに感じます。息遣いも聞こえ(かと言って、走ってもそんなハーハー言ってなくてすごいなと)、力強く迫力満点です。

雨の中を走る場面では、効果音もバッチリで 笑、スクリーンに映し出される雨が激しくなるにつれ、実際は雨は降ってもいないのに、ほんとに劇場に降っているかのような感覚になります。

なんなんでしょう。本編通して、錯覚というか、本編の語りでも出て来たんですが、何が夢で何が現実でと、よくわからなくなってくるんですよね。

迷子になるというわけではなく、これも本当に起きたことかなとか、いやでも与三郎は今ここにいるしとか、この目の前のは人なんだけど人ではなく岩なんだなとか、まんまとやられた感じがして、大好きです。笑。

最後に

今回はじめてコクーン歌舞伎を観に行きましたが、大満足です。

難しいかもと思っていた話も内容はわかりましたし、喜怒哀楽があって、特にこんなに笑えると思っていなかったので、随所でクスっと笑わせてもらって楽しかったです。

またコクーン歌舞伎を見たいと思いますし、なにより、次は古典の歌舞伎も見に行きたいなと思ってます。計画立てねば。

持っていったほうがいいもの

▼ビニール袋orエコバッグ
パンフレットを買う方はぜひ。パンフレットに袋は付いて来ませんので、大きいバッグで行かない限りは、ビニール袋かエコバッグを持参しておくと持ち運びに困らず便利だと思います。

▼飲み物
ホール内でも売ってはいます。ちょっとお高め。

▼ミント系のあめ
ホール内は人が多いので、二酸化炭素も多めなはず…眠くなる方はぜひ。ガムだと吐き出さなきゃならないので、個人的にはあめのほうがいいと思っています。