『マダム・イン・ニューヨーク』尊敬と対等を求めた壮大な旅

見るきっかけとなったのは主演女優のシュリデヴィさんがお亡くなりになったニュースを読んだから。残念なきっかけだけど、作品を見ればあのチャーミングなお顔をいつでも拝見できますね。

それでは『マダム・イン・ニューヨーク』をご紹介。

作品情報

原題:ENGLISH VINGLISH
邦題:マダム・イン・ニューヨーク
上映時間:134分
制作:2012年/インド
日本初公開:2014年

キャスト・スタッフ

監督:ガウリ・シンデー(長編デビュー作)
脚本:ガウリ・シンデー

登場人物:
シャシ…シュリデヴィ(ヒンディー映画15年ぶりの復帰)
サティシュ…
アディル・フセイン
ローラン…メーディ・ネブー
ラーダ…プリヤ・アーナンド
隣の乗客…アミターブ・バッチャン(特別出演)

あらすじ

料理上手のインド人専業主婦シャシは、2人の子どもと忙しいビジネスマンの夫サティシュに尽くす日々。しかし得意のお菓子作り以外では誰からも承認されないばかりか、家族の中で自分だけ英語が出来ないことをバカされる始末。そんなある日、ニューヨークに暮らす姉から姪の結婚式の手伝いを頼まれ、家族より一足先にニューヨークへと向かう。ところが英語ができないことでたびたびトラブルを招き、心はすっかりブルーに。そんな時、“4週間で英語が話せる”という広告を目にした彼女は、家族や姉たちにも内緒で、その英会話学校に通い始める。やがて、世界中から集まった英語が話せない生徒たちとの交流を重ね、英語が少しずつ身についていく中で彼女の心境にも意外な変化が生まれ始めるが…。(引用元:allcinema.net)

感想

英語ができないことから夫や娘からはバカにされ、英語ができないだけで夫や娘から“料理上手なだけ”と存在価値を決めつけられるシャシ。

ある出来事から英会話教室に通うようになるシャシですが、彼女が欲しかったのは“英会話ができるようになること”というより、“ひとりの人として認められる”“対等な人間としての存在価値”だったんじゃないかと考えされられました。

自分はこれができなくて人より劣っているんじゃないかと考えながらも動けなかったりできない自分に悩んでいる人。この映画を見ることで一歩踏み出す勇気が湧くかもしれません。

どうも人をこういう人だと決めつけがちな人。自省の念をこめてこの映画をおすすめします。

そう深く考えなくても、出てくる人は美人さんだし、服やご飯、街の映像はカラフルだし、キレイ、カッコいい、ステキであっという間に時間が過ぎちゃいます。今はとにかくラドゥーが食べたい!

感想(ネタバレあり)

↓↓ネタバレとなりますので、知りたくない方はお戻りください

悪役は…監督自身!?

監督ガウリ・シンデーはこの作品で長編デビューを飾るわけですが、主人公のシャシのモデルはある人物なんだとか。それは監督本人のお母さん。そのお母さんとの関係を基に脚本を書いたそうで、映画冒頭にも”For My Mother(母に捧げる)”という文言が出てきます。

ということは、シャシの娘にどこか自分を投影しているはずですよね。自分を映画に出すわけです。いい役にしたいじゃないですか、美人で健気で母親思いで。さあ、どんな風に“いい娘”にしたのかな、と意地悪な気持ちで見たあなた(私)、覆されますよ。

本当にイヤな娘なんですよ。反抗期だとかそういうの知りません。最悪です。最悪すぎてサブナの味方になって「監督はサブナをなんでこんな悪役にしちゃったの」と疑問を投げかけたいほど。でも監督は自分の気持ちに正直な方なんでしょうね。そこにはご自身の体験談があったようです。

監督のお母さんはピクルス作りの名人でそれを売ってもいたそうですが、英語が苦手(マラーティー語がメインの言語)。監督は幼少期にそんな母親に対して「なんでみんなは英語が話せるのに自分の母親は話せないんだろう」と思っていたそう。

そういう気持ちの反映でしょうか、作品の随所にシャシの娘サブナが英語のできない母親をバカにするシーンが出てきます。母親をバカにするやり方はいろいろあって、頭のいい娘なんだろうなと思います。よく思いつくなと。もしかしたらこれは監督が幼少期に母親に対してとった行動そのものなのかもしれませんね。

でも、こちらは見守るだけしかできないので「なんて意地悪な娘なの!キーー!」とハンカチでも噛み締めたいところだったんですが…。

これだけの悪役ですからね。どんな結末を迎えるのかも1つの楽しみですよ。クライマックスの結婚式のシーンで見せるサブナの表情からも目が離せません。

ちなみに、初めて台本を読んだシュリデヴィさんは「まるで自分のために書かれたようだ」と感じたそうです。大女優のシュリデヴィさんも結婚を機に芸能界を引退。それから15年、専業主婦として夫と子供の世話をし、PTAに出かける生活だったそうです。母親に捧げる作品で、母親業をこなしていたシュリデヴィさんは見事 復帰を果たされたんですね。

隣の席に大物が座っていたら

一人、不安に押しつぶされそうになりながらNY行きの飛行機に乗ったシャシ。そんな彼女の隣にたまたま居合わせた乗客こそがインド映画の大スター アミターブ・バッチャンさんなんです。

もうね、出てきた瞬間からなんだこの人はというオーラを出しまくりで。もしバッチャンさんをご存知ない方もこれを見ると彼が気になって仕方なくなることでしょう。シュリデヴィさんとは20年ぶりの共演とのことですが、2人のやりとりがめちゃくちゃ楽しいんですよ。

飛行機に乗る時って、飛行機が無事飛ぶかという不安もあるかもしれませんが、それよりも隣にどんな人が座るんだろうって思ったりしませんか。あんな人が隣なら長時間のフライトもあっという間に目的地に着きそうです。ただし、周りにはめちゃくちゃ迷惑かけます…。

実はこの”隣の乗客役”をアミターブ・バッチャンさんが演じたのはヒンディー版(日本で見れるのもこちらのバージョン)で、タミル版ではタミルのスーパースター アジス・クマールさんが演じたそうですよ。

コンプレックスに立ち向かって自尊心を取り戻す

もし自分がシャシだったら、あんな行動力を発揮できるかな…。

“ジャズ”をうまく言えなかったこと、娘の学校の三者面談で英語を話せなかったこと、それを娘にまでバカにされたこと。入国審査でしっかり練習したはずの英語が通じず、英語で書いておいた紙を見せなくちゃならなかったこと。英語ができないだけで、毎日ちょっとずつイヤな思いを重ねてきたシャシ。

極め付きは、ニューヨークのカフェ。注文ができず、意地悪な店員に自分の人格までを否定されたように感じます。もう本当この店員が意地悪。こういう店員に当たったら誰だってイヤになりますよね。(ちなみにこの後見せるシャシの涙は美しすぎます。)

でもこのイヤな経験のおかげで、たまたま目に入った英会話学校に通うことになるし、それで運命が好転するんだから人生わからないものです。英会話学校の広告を目にしたシャシは”すごい”としか言いようのない行動力を発揮して、自分で英会話学校に申し込み、電車に乗って学校があるビルまでたどり着くんです。

考えてもみてください。これまでは英語ができなくてバカにされる人生だったんですよ。英語に対する苦手意識があったでしょう。またバカにされるかもと怖くもあったでしょう。コンプレックスに立ち向かう勇気はどれほどだったんでしょうか。それでもカタコト(時にはカタコト以下)の英語で自力で目的地まで到着できたんです。

その時見せるシャシの喜びは…一人でやり遂げた達成感であふれていて、見ているこちらが”よくやった”と褒めたくなるほど素晴らしいものでした。家で一人で見ていたら拍手しちゃいますよ、そりゃ。

きっとインドにいた頃のシャシならすぐに夫に喜びの電話をして”今 仕事中だから”と冷たく返されてそうですが、なんてったって英会話学校のことは誰にも言っていません。インドにいる家族にもニューヨークでお世話になっている姉にも。だって姪っ子の結婚式の準備を手伝いにきたんですから。誰も英会話学校に通うなんて思っていなかったことでしょう。

英会話学校で出会う仲間たち

さて、そうやってたどり着いた秘密の英会話学校。ここで出会った仲間たちがまたステキなんです。

フランス人シェフのローラン、メキシコ人ナニーのエヴァ、タクシー運転手のサルマン、美容師のユソン、ITマンのラマ、無口なウドゥムブケ、そしてデヴィッド先生。

みんな出身地や人種 肌の色も性別も思考も違う、たまたま出会った仲間たちだけど、少しずつ理解し合って仲良くなって。映画を見に行ったり冗談を言い合ったりと”親友”になっていくんです。

ちなみに、運転手サルマンの名前を聞いたときにITマンが笑いをこらえるのは、同姓同名のサルマン・カーンというインド映画のスターを思い浮かべたからかもしれません。

印象的な英語フレーズがたくさん

シャシが英会話学校に通いだしてから、いくつかポイントとなる英単語・フレーズが出てきます。どれこもれもステキだなと思いました。

◇entrepreneur(アントレプレナー)
英会話学校で仕事の話をしているときにシャシが先生から教えてもらう単語。「起業家、企業家」の意。これまで自分のラドゥー作りは「小さい」ことだと考えていたシャシにとって、少し自信を得るきっかけとなる単語です。

◇judgemental(ジャッジメンタル)
シャシが映画を見ていると、男性が女性に対して「なぜ君はそんなにjudgementalなんだ」と怒っていました。どうしてもその単語の意味がわからずNY育ちの姪っ子に意味をたずねると、見た目だけでよく知りもしないのに「決めつけること」と教えてくれます。

この単語が出てきたときにすぐ、シャシの夫や娘の顔が思い浮かびました。彼らはホントjudgementalですよね。

◇May I 〜(メイアイ〜)
この映画の中でも特にステキなフレーズだと思っているもの。英会話学校に遅刻してしまったシャシが教室に入れずにいる時に、こう言えばいいよと教えてもらったフレーズ。それが「May I come in?(入ってもいいですか?)」。

許可を得るときには「May I 〜?」を使えばいいんだという実践英語を学んだクラスの仲間たち。放課後、彼らの間で「May I 〜?」が大流行するのがなんだか微笑ましかったです。

なんと、この「May I 〜?」はクライマックスでも重要な役割を果たすんですね。それがなんとも力強く、気高い雰囲気をまとって放たれる一言になってるんです。このセリフがきた瞬間にぞぞぞーっと鳥肌が立って、よし行けー!と胸に熱い思いが湧き上がってきました。最高です。

インド映画って踊るんでしょ?

はい、この映画でも踊ります。ただ、最後の最後に結婚式のシーンで踊りますので、作中のジャマになるといったことはありません。インド映画のダンスを見たいと思っていた人にとっては、ようやくきたかと楽しめるんじゃないでしょうか。

また、家でシャシと息子がマイケル・ジャクソンの真似をして遊んでいるシーンもありますが、なかなかほっこりとしますよ。

気になった細かいところ

これはもう蛇足なので箇条書きでポンポンポンと。
(1)衣装が豪華すぎるんじゃないか問題。いいんですけどね、キレイで楽しめたから。
(2)インドにある学校で三者面談やる先生がインドの公用語であるヒンディー語が苦手ってどうよ。まあ英語推しの学校だから、そんなこともあるか。
(3)移動しながら旦那さんに電話するシーンの風景CGがめちゃくちゃCGまるわかりだった。
(4)旦那さんがラストのダンスシーンで想像以上にはっちゃけていた。割と最後まで旦那さんは嫌いなキャラクターだったんですが、インド映画にダンスは不可欠ですね。

まとめ

評価★★★★☆(星4)
・1人で見れる
・友達と見れる
・恋人と見れる
・親と見れる
・子供の年齢によっては一緒に見れる(母親の恋愛要素がほんのちょっとあり)
・何かを始めたいときに背中を押してくれる作品